前の章でお話ししたものはすべて楽器用に作られたMIDIの、基本的な照明への応用でした。
ここでは初期のMIDIには無かった楽器以外の分野へのMIDIについて書いて行きます。

MMC

まず照明とは関係ないMMC(Midi Machine Control)ミディ・マシン・コントロールです。
これは1990年代に入ってから制定されました。ここでいうマシンとはレコーディングなどで使われるテープレコーダの操作を目的としたものです。最近ではハードディスクレコーダなどには必ず付いています。
コマンドには単純なREC,PLAY、STOP、FF、REWなどの操作だけでなくテープ上の特定の場所の頭出しなどもできるようになっています。
MIDIタイムコード(SMPTEタイムコードと同じ1秒30フレーム以外に1秒100フレームの規格もあります。)などもあります。
直接、照明とは関係ありませんが、最近は同期物などで音と連動させる時などにも使います。ちょっと難しくなったかな。
ちなみに LIddell はMMCも出せるので、ハードディスクレコーダなどをコントロールできます(ちょっと宣伝)。

MSC

もう一つ照明と関係あるのがMSC(Midi Show Control)ミディ・ショー・コントロールです。
MSCはその名のとおりショー全体のコントロールを目的に作られました。
照明だけでなく、音響ではアンプやエフェクタの操作、映像ではビデオ、フィルム映写機、スライドプロジェクタなどの操作ができます。
MSCはそれだけでなく、なんとスモーク、CO2や天然ガス、花火、火炎、昇降装置、回転台その他50種類以上のコマンドが細かく用意されています。
基本的には照明だけでなく音響、映像もすべて同じような方法でCUEナンバーをつけて呼び出したり、GOによるシーケンスの順送りなどを行います。またMSCにも前に書いたMMCにあるMIDIタイムコードに準じたタイムコードがあり、タイムコード実行も可能です。

ただ私個人の感想ですが、いまいちMSCは普及していないようです。海外製品の卓で一部MSCによるコントロールができるものがありますが数は少ないようです。
照明屋さんだけでなく、皆がMSCの知識があってそれに対応したコントローラが無いと実現できないですから大変だと思います。
また道具や特効は人命にも関わるものですから注意が必要です。確かに同じことを繰り返し行うには正確で間違えませんし、ずれることもないのでより安全だと思いますが、MIDI規格書にも書かれているように危険なものには必ず安全装置(リミットスイッチやセンサ、非常停止スイッチなど)の設置が前提です。


ちょっと難しくなります。

MIDIとDMXの信号の送り方の違い

MIDI信号とDMXでは信号や速度にどのような違いがあるのでしょうか
信号の送り方の違いは、MIDIはカレントループ(電流ループ)だということです。カレントループとは電流の変化で信号を送る方法です。利点としてはケーブルを延ばしたときにケーブルの抵抗による影響を受けにくいことと、ノイズに強いことです。
DMXなどの電圧で送る方法は、途中のケーブルの抵抗により末端で電圧が落ちてしまいます。
ところが電流で送ると途中でケーブルの抵抗があっても全体を流れる電流はどこでも同じです。ただし、これは名前のとおり1つのループになった部分で実現されますから、DMXのスルーと違いMIDIの場合はスルーといっても必ずアンプを通っており、一対一の組み合わせになっています。
そのためスルーを通った信号は少しずつ遅れていきますから、楽器などでもスルーでつないでいくのは数台までと言われています。それ以上つなぐ場合は、MIDI分配機でつなぐとよいでしょう。

信号を送る速度はどうでしょうか
DMXは250Kbpsです。(DMX中級編 参照)MIDIは31.25kbpsです。通信速度は8分の1です。これだけではずいぶん遅いようですが実は送り方が違います。
DMXは前に勉強したように常に信号を送っていました。
MIDIは変化したときだけ送ります。何もしていないときは何も送りません。
楽器の場合は鍵盤を押したときにどの音程の音がどのくらいの強さで押されたか出力されます。
楽器では同時に鍵盤を押したりする数はそれほど多くありません。一人で弾いている場合は指が10本ですから同時に送るデータは最大10個です。シーケンサなどを使っても、どうでしょう60くらいではないかと思います。
照明ではMIDIで直接信号を送る場合ch1が63(127段階で)、ch5が95、ch20が127という具合に出力されます。ところがたくさんのチャンネルを同時に動かした場合(マスターやクロスフェーダで操作したときなど)はチャンネル数だけ同時にデータを送る必要があるので、データが増えて遅れてしまいます。
この方法では、50ch位まででやめておいた方がよいでしょう。

鍵盤楽器による照明の制御

照明におけるMIDIの現状

現在、日本では照明でMIDIはほとんど使われていません。
海外製の調光卓などにはMIDIが結構付いていますが、現場で活用しているのをあまり聞きません。ごく一部で音などとの同期で使われている程度ではないでしょうか。
常設などでシステムの設計を音響屋さんやコンピュータ屋さんが作ると、DMXは彼らにとってなじみが無いのでMIDIで照明をコントロールすることが多いようです。逆に照明屋さんにとってはMIDIの方がなじみがありません。
私の個人的な感想ではMSC(ショーコントロール)がもっと普及すれば使えるかなとも思いますが、MIDIシーケンサなどでの照明コントロールはどうも面倒な気がします。


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